プレゼンテーション:小宮 知久
ライブエレクトロニクス作品『VOX-AUTOPOESIS』
本作『VOX-AUTOPOIESIS』は、2015年より小宮知久が発表してきた、演奏者が生成される楽譜を初見で歌唱していくライブ・エレクトロニクス作品である。演奏者の声を即時的に分析したデータを楽譜生成のアルゴリズムとして用い、さらに生成された楽譜を演奏者が歌うことで、演奏→楽譜生成→演奏→楽譜生成…というプロセスが際限なく繰り返される。楽譜を生成する原理としては、周波数分析を使用して歌手の声がどれだけ変化するかを常に測定し続け、声の変化量が大きければ大きいほど、楽譜に予め示されている基準となる音から遠い音を記譜するようにプログラムしている。つまり演奏者の声が痕跡として、楽譜上に現出されていく。演奏者は常に、譜面として示されていく4秒前の自己のその痕跡を歌い、同時に4秒後に歌うべき音が声によって決定し記譜されていく。このように自動生成される楽譜を通して、自らの声によって自己を拘束するシステムが生じる。また、演奏者がどれだけ生成されている楽譜から演奏の間違いを起こしているか、コンピュータが常にモニタリングしており、演奏エラーの総数は、楽譜生成の様態の複雑度や、声から直接的に変調される電子音響に影響を与える。つまり、演奏のエラーを起こすほど、生成される楽譜はより複雑になり、彼らの肉声はリアルタイムで変調がかけられて、電子音響ノイズに埋没されていく。
本作品のプログラムはMax/MSP、そしてその作曲支援ライブラリbachを用いて実装された。bachを活用した作品例として、また自動生成された楽譜の意味性についてプレゼンテーションしたい。
本作『VOX-AUTOPOIESIS』で生成された楽譜を2018年、thoasaより出版。
小宮 知久 Chiku Komiya
1993年生まれ。作曲家。
演奏行為自体を作曲法として組み込み、コンピュータを用いて作曲-演奏の関係性を再考する作品を発表している。演奏者が新たな身体性を獲得することを企図して、アコースティックな作曲からライブ・エレクトロニクス、電子音響を駆使して制作する。
東京藝術大学音楽学部作曲科卒業後、同大学院音楽研究科作曲専攻修了。
近年の活動に『N/O/W/H/E/R/E ̶ ニューメディアの場所(ユートピア)をめぐって』(2017 / 東京藝術大学芸術情報センター)、『新しい洞窟』(2017 /おおがきビエンナーレ・サテライト企画)、『泳ぎつづけなければならない』(2016 / トーキョーワンダーサイト(現 TOKAS)/個展)、『NUL』(2015 /東京藝術大学奏楽堂 / オーケストラ作品)など。
http://chikukomiya.com