イブニング・セッション

プレゼンテーション:安野 太郎
「大霊廟I」と「大霊廟II」-開いた時間と閉じた時間-

自動演奏音楽における機械はこれまで大きく分けて2つの方向性で進展してきた。一つは人間による音楽を人間が演奏するように動作する機械としての方向。もう一方は人間の身体能力を超える機械によって、人間には実現不可能な新しい音楽を創造するシステムという方向である。ヴォーカンソン(仏)の笛吹き人形(1738)、機械制御のプレイヤーピアノ、オルゴール等が前者の代表であり、コンロン・ナンカロウによる一連の自動演奏ピアノによる試みや、パット・メセニーによるオーケストリオン等が後者の代表である。

ゾンビ音楽とは、筆者が2012年から実施している自作の機械による自動演奏音楽の名前である。ゾンビ音楽における自動演奏音楽は、コンロン・ナンカロウの自動演奏ピアノの流れに続く、機械によって人間の身体による演奏を超える新たな音楽を模索する試みであるが、ナンカロウとの違いは楽曲を構成する音組織が西洋音楽由来のものではなく、音組織すらも機械の方法論によって創作する試みであり、これまで筆者はこのゾンビ音楽による様々な実践を様々な機会で行ってきた。

2017年にはゾンビ音楽の拡大形である大ゾンビ音楽による2つの試み「大霊廟I」と「大霊廟II」を行った。この2作品は似通ったシステム構成の作品であるが一方は、展示形式の音楽作品であり、もう一方はコンサート形式の作品である。本研究報告ではこの2つの作品をそれぞれの発表形式の違いを軸にして紹介し、特に音楽というジャンルではまだ実践が少ない、展示形式の音楽「大霊廟I」に関してはその形式にいたる思考過程を中心紹介し、「大霊廟II」に関しては、自動演奏音楽をコンサート形式で行うにあたっての問題点とそれを乗り越えようとするコンセプトを生み出した思考過程を中心に紹介する。

大霊廟I (2017)岐阜県美術館


大霊廟II (2017) BankART


大霊廟 Maxパッチ


安野 太郎 Taro Yasuno
1979年東京生まれ。2002年東京音楽大学作曲科卒業。2004年情報科学芸術大学院大学(IAMAS)修了。
近年の代表作には自作自動演奏機械の為の音楽「ゾンビ音楽」シリーズ「大霊廟」シリーズ等がある。
第7回JFC作曲賞(日本作曲家協議会)1位。第12回、17回、21回文化庁メディア芸術祭アート部門審査委員会推薦作品。
ぎふ清流の国芸術祭 Art Award In the CUBE 2017 高橋源一郎賞。KDCC2018奨励賞。
2017年にワルシャワの音楽フェスティバルRadio Azja でソロ・コンサートを開催した。
2019年第58回ベネツィア・ビエンナーレ国際美術展日本館代表作家。